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2012年4月 4日
急がれる建設業の社会保険加入(後)

 

<横行するダンピング受注>
 国土交通省と農林水産省がまとめた2010年度公共事業労務費調査のデータをもとに、従業員数が10名以上の事業所で、65歳未満、月18日以上従事する建設労働者の有効標本(77,891標本)のうち、都道府県別の建設業における社会保険などの加入状況を算出したデータを見ると、全国平均は70%。九州各県を見ると、福岡県は75%、佐賀県は83%、熊本県は74%、鹿児島県は62%となっている。九州は、東京都の32%、神奈川県の43%、沖縄県の42%に比べると高いように見えるが、未加入企業が20%~30%あり、決して合格点とは言いがたい。

建設業界 イメージ そもそもなぜこのような状況が生まれるのか。我が国の建設生産構造は、発注者から直接、工事を受注した元請業者が自ら工事施工するのではなく、下請業者に仕事を回す仕組みになっている。
 元請業者はコスト削減を考え、単価の安い業者に仕事を回していく。そうなると、「一人親方」が増えていく。特定の会社に所属していても、その会社と個人請負の関係となり、個人事業主のような立場になれば、一人親方として扱われる。一人親方になると雇用保険には入れず、自ら国民年金に加入しなければならなくなる。しかも、一人親方が現場で労災事故に遭った場合、元請業者の労災を申請することはできない。直接雇用者と同じ仕事をしているのであれば、災害に遭う危険性は他の労働者と変わりはない、にもかかわらずだ。
 もう1つ、社会保険未加入問題と切り離せないのが、「ダンピング問題」だ。ダンピングとは、原価を下回る金額や採算割れの価格での受注のことを指す。独占禁止法では、ダンピング受注は「不当廉売」として禁止されているが、近年、ダンピング問題は全国で広がっている。「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が01年4 月から施行されたが、公共工事において適正な施工が見込めないような著しい低価格での受注が横行している。
 だが、地方自治体においてダンピング受注防止に向けての取り組みが不十分であった。ダンピングによる工事価格の低下により労務単価も下落しており、下請けへのしわ寄せ、労働条件の悪化、安全対策の不徹底等につながることが指摘されてきた。元請業者がダンピング受注した工事の請負金額は、元請業者が一定の利益を差し引いていく。元請業者がダンピング受注したしわ寄せは、さらに低価格で下ろされていくという構図となっている。結果として、建設業で働く技能労働者の待遇と意欲は低下する。
 専門工事業、設備工事業及び建設関連業団体で構成されている社団法人建設産業専門団体連合会は、10年3月に「建設労働生産性の向上に資する12の提言」を発表している。このなかで「コア技能者の直接雇用の推進」を掲げ、具体的には「登録基幹技能者や熟練技能者等とは明確な雇用関係を結び、専門工事業者としてのコアコンピタンスの維持・確保を推進」し、「直接雇用することで負担増となる法定福利費や技能教育・安全教育費等の必要経費を削除するような安値受注は防止する」ことを提案している。

<重層下請構造の抜本的是正を>
 言うまでもないことだが、保険にも入れない建設業界のままでは、職人、技術者になりたいという若者は出てこない。
 この問題は、監督官庁である国土交通省や建設業許認可権を有する都道府県が、社会保険を所管する厚生労働省と連携して、建設業許可、その更新の際、または立ち入り調査での厳格化を進めていく必要がある。
  社会保険加入の前提となる法定福利費は、発注者が負担する工事価格に含まれる経費であるが、個別の請負契約の当事者間において見積の段階から確保し、発注者から2次3次の下請企業に至るまで支払われるよう、行政も強力な指導を行ない、業界団体、各業者も取り組まなければ、建設業で働きたいという意欲ある若者は育っていかないだろう。
 建設資材の高騰や公共事業の縮小傾向は続いており、依然、建設産業は厳しいのが現状だ。しかし、建設業は我が国の全産業の1割を占めており、インフラ整備を担う公共性が要求される業種でもある。それだけに社会的責任も重い。
 今こそ若い技術者がもっと誇りを持って仕事をできる環境整備が求められている。ダンピング受注や重層下請構造の是正を含めて、業界そのものの改善を図る契機とすべきである。

(了)
 
【近藤 将勝】
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