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2012年12月20日
【建設】松本龍氏落選の衝撃~建設業界の変化に左右された福岡1区

 

<社会党時代からの蜜月関係に終止符>
matumoto.jpg 12月16日の衆院選は自民党の圧勝に終わったが、福岡県内11選挙区すべてにおいて自民党が議席を奪取した。改選前は、8選挙区で民主党が議席を獲得していた。とくに福岡1区は、松本龍氏が部落解放同盟中央本部の幹部を務めていることもあり、「(部落)解放の議席」と呼ばれ、旧社会党時代から、自民党が候補者を立てても、勝てない選挙区とされていた。2005年の小泉旋風のなかでも唯一、民主党が議席を死守した。今回、元復興担当大臣を務め、党派を超えて広い支持層を有していた松本龍氏が落選したことで、福岡県の政治勢力図そのものを大きく変えることになる。

 投開票直前14日の記事において、これまで松本龍氏を応援してきた建設業者のなかから、自民党支持へと旋回する業者が出始めていることを紹介した。

 それでも他地区はともかく福岡1区は、支持基盤の連合系労組や部落解放同盟だけではなく、自民党系地方議員や公明党にも支持層が広がっていることから、今回も死守しきるのではないかと予測されていた。

 しかし、結果はみんなの党の新人、竹内今日生氏にもおよばない大惨敗となった。いったい何があったのだろうか――

<離反した建設業界>
 建設業界関係者は次のように語る。

「福岡の建設業界は、松本さんあってですよ。長年、お父さんの英一氏も建設業協会の会長を務めてこられました。」

 その言葉のとおり、建設業界は、小泉旋風が吹き荒れた郵政解散でも松本氏を支援してきた。福岡1区に関しては、党派を超えて自民党所属の地方議員も、自民党公認候補がいながら、松本氏を支援してきたという。

 引退した山崎拓氏も、05年のいわゆる郵政選挙の際に、ホリエモンこと堀江貴文氏が福岡1区の候補者になるという話が持ち上がった際に、小泉首相に堀江氏以外の候補者とするよう要請したといわれる。

 松本龍氏の祖父、冶一郎は「部落解放の父」と呼ばれ、戦前は全国水平社を率いて活動し、特高警察に多くの仲間が逮捕され、松本氏自身も国家権力の弾圧を受けた。日本が国家総動員の戦争体制に突き進むなかで、水平社の仲間たちも次々転向していった。しかし、冶一郎氏は、権力の水平社解散命令にも屈せず、最後まで水平社の荊冠旗を守り抜いた。

 『不可侵 不可被侵(侵すべからず、侵さるべからず)』が信条で、現在の福岡県庁前にある東公園で、身寄りのない人など生活に困窮した人に炊き出しをしたエピソードは有名だが、幅広い人々から慕われ、今なお、尊敬され続けている。

 その冶一郎氏の孫に当たる龍氏も、気さくな人柄で、党派を超えて支持する人が多かった。

「龍さんの親父さん(松本英一氏)には本当にお世話になった。龍さんも去年の失言があったけど、人間的によか人たい」

 ところが、今回の衆院選では、それまでの蜜月関係から、自民党・民主党が真っ向から衝突する構図となった。古賀誠・山崎拓・太田誠一の大物が引退するなか、安倍晋三総裁誕生の立役者となった麻生太郎氏が、福岡県連が公認し、決起集会まで行なっていた新開裕司氏から、元福岡県議の井上貴博氏へ差し替えを行なった。自民党県連は猛反発したが、総裁裁定は覆せない。これを受けて、建設業界も松本氏から井上氏へとシフトしたといわれる。

 政治に振り回されてきただけに、自民・民主双方に距離をおきつつも、「コンクリートから人へ」を謳い、公共事業費を大幅に削減してきた民主党は応援できないと語る業者は少なくなかった。これまでの慣例もあり、松本氏を応援するという業者もいたが、松本氏離れが進んだことは間違いない。

 今回の結果について建設業者の受け止め方は様々だ。「お爺さんの代からのつきあいになるし、弊社の安全大会に龍さんにきていただいたこともある。気さくな人だし、悪い人ではない。時代の流れもあるだろうけど、惜しい人だ」との声もある一方で、「人の痛みがわからない発言をしたのだから、落選するのは当然」と、厳しい意見も聞かれた。

<復興相時代の発言が足かせに>
 昨年7月の宮城県知事などに対する発言は、テレビニュースを通じてクローズアップされ、非難が巻き起こり、辞任へとつながった。辞任後も動画サイトで転載された宮城県知事への発言のシーンの再生回数が数十万アクセスに達し、有権者の意識にしっかり印象付けられたことは疑いないだろう。

 さらに、自民党が政権公約で、民主党政権で閣議決定された人権委員会設置法案に反対することを明確にしたことも影響したといわれる。同法案は、松本龍氏が顧問を務める部落解放同盟が求めてきたものだが、公権力が言論の自由を規制し、言葉狩りや言論の萎縮を生み出すと根強い批判がある。自民党が同法案に反対表明をしたのは、民主党の支持団体で同法案を推進した連合や部落解放同盟に対するけん制だと見られる。

 しかし、民主党の政策はどうあれ、紛れもなく公共事業の必要性、建設業の役割をもっとも深く認識し、入札のあり方を含めて建設業界の行く末に対して警鐘を鳴らしてきたのは県建設業協会を務める松本龍氏の実弟、優三氏である。

 兄の松本龍氏も建設業界の厳しい状況、そこで働く人たちの思いは熟知しており、公共事業不要論を唱えたことは1度もない。むしろ民主党のなかで松下政経塾系統の前原政調会長などが「土建国家にするな」と主張し、公共事業費削減を推し進めてきた。

 松本氏は、とんだとばっちりを受けたのである。

 今回の結果は民意の反映だ。しかし、イデオロギーを越えて、現場で汗を流して働く弱い立場の人たちの思いを受け止め、そのことを政治に反映できる人が議席を失ったことは、残念でならない。

【近藤 将勝】


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